随煩悩

i. 根本煩悩に付随して起きる煩悩のこと。細やかにも激しくも動く。
ii. <小随煩悩><中随煩悩><大随煩悩>の三郡に分類される。
iii. <小随煩悩>
1) 各別に強い性格を持っており、不善そのものとして働く心作用のこと。他の煩悩との共通点は小さい。
2) <小随煩悩>は、十ある。
3) <忿〔ふん〕>とは
(a) 怒りの爆発のこと。
(b) 根本煩悩は<瞋>である。
4) <恨〔こん〕>とは
(a) 恨みのこと。(心でくすぶり続けているだけ。陰湿)抑圧によって起こる。
(b) 根本煩悩は<瞋>である。
5) <覆〔ふく〕>とは
(a) 自分の悪を覆い隠すこと。
(b) 根本煩悩は<貪・むさぼり><癡・おろかさ>である。
6) <悩〔のう〕>とは
(a) 悩むこと。どうにもならないことを考えること。
(b) 根本煩悩は<瞋>である。
7) <嫉〔しつ〕>とは
(a) 嫉妬すること。
(b) 根本煩悩は<瞋>である。
8) <慳〔けん〕>とは
(a) 物惜しみすること。けち根性。
(b) 根本煩悩は<貪・むさぼり>である。
9) <おう>とは
(a) 相手の心を乱し、たぶらかすこと。
(b) ありのままの自分を妨げ、実物以上の自分を見せびらかそうとすること。
(c) 根本煩悩は<貪><癡>である。
10) <諂〔てん〕>とは
(a) 相手を自分のほうに向けさせようとして、心にも無いことを言ったりしたりすること。
(b) 根本煩悩は<貪><癡>である。
11) <害〔がい〕>とは
(a) 人の哀しみが分からないこと。→人の心が分からない。
(b) 根本煩悩は<瞋>である。
12) <憍〔きょう〕>とは
(a) 自分をおごり高ぶること。
(b) <憍>と<慢>はよく似ているが、<慢>は他人と自分を比較して高慢になることで、<憍>は他との比較の意識は少なく、自分を自慢し思い上がること。
(c) 根本煩悩は<貪・むさぼり>である。
iv. <中随煩悩>
1) <小随>の心所である、不善の<こころ>の働きの根底に、常時見られる心作用のこと。
2) <中随煩悩>は、<無慚><無愧>の二つがある。
3) <無慚〔むざん〕>とは
(a) 真理に対しても良心に対しての羞恥心がないこと。
(b) ⇔<慚>内面的な羞恥心
4) <無愧〔むき〕>とは
(a) 世間体も人のことも気にしない心作用のこと。
(b) 底に自我中心・利己性があり、己の汚れを自覚しない。
(c) ⇔<愧>世間をはばかり、人目を恥じる
5) 恥とは、自分を省みること。
6) <無慚><無愧>は、自分を振り返り、省みることを忘れた心所である。
v. <大随煩悩>
1) 「染心(不善、悪心、有覆無記)」に働く心作用のこと。
2) 八つに分類される。
3) <掉挙〔じょうこ〕>とは
(a) こころのたかぶりのこと。「頭にきた」
(b) 内面的に平静な状態を失う。
4) <惛沈〔こんぢん〕>とは
(a) こころが沈んでしまうこと。
(b) 内面的に平静な状態を失う。
5) <不信〔ふしん〕>とは
(a) 不信感を抱くこと。相互の関係は完全に遮断される。
6) <懈怠〔けだい〕>とは
(a) 善い事、為すことを怠けていること。(積極的)
7) <放逸〔ほういつ〕>とは
(a) 善悪の判断も行動もだらしないこと。(消極的)
8) <失念〔しつねん〕>とは
(a) 念ずることを失っている。仏陀の教えや真理への志向を忘れること。(命を大事にしていない)
(b) ⇔<正念〔しょうねん〕>
9) <散乱〔さんらん〕>とは
(a) 心が定まらないこと。
(b) 対象への移り気があり、落ち着きの無い状態。
(c) 内面的に平静な状態を失う
10) <不正知〔ふしょうち〕>とは
(a) 誰にでも分かるはずの道理が分からないこと。
(b) <無常><無我>あるいは<空>の自己が会得できないこと。
(c) <不正知>の自覚は、<正知>を得ることのみ。
11) 正知・正見を得れば、煩悩はすべて崩れる。(特に分別起の煩悩)
12) 正知・正見が得られないから、我見・辺見・邪見などが我が物顔に活動する。
vi. 「煩い悩む」ことは、悪ではない。
vii. 自分の煩悩を自覚し、己への省察を深めていくことが大事である。
viii. 「人の心、もとより善悪なし。善悪は縁に随っておこる」道元禅師
                      『正法眼蔵随聞記』より

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